特集「医師から見た子どもの成長」

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◆ 学校に入るということ ◆
福岡シュタイナー学園・校医 安達 晴己

一般内科医・プライマイリケア認定医。福岡出身の二児の母。
現在、福岡で小児科・内科の診療所での非常勤医と  
プライベートで自由診療クリニック  
「小さいおうち自由クリニック」を開設。
主な著書・共著として、
『シュタイナーのアントポゾフィー医学入門』。

ほんの赤ちゃんだった子どもが、幼稚園に入り、自分で着替え、持ち物を準備し、お母さんの手から離れてお友達と過ごすようになると、親は感動しますね。

また、小学校入学を迎えると、家から一人で出かけていきます。昨日まで大人が目を離すことなどなかったのに!学校では、どんどん勉強が進み、家でも宿題に追われていたりします。
まじめに取り組む子にとっては、遊ぶ時間もないくらい!
社会のなかで、子どもの年齢に応じてどんどん周囲の状況が変化します。私たち親はその状況に飲み込まれて、ある姿に感動したり、逆にもう一年生なんだからこれぐらいできないとだめよと、せかしたくなります。

でも子ども自身のからだや心ではどんな変化が起きているのでしょうか?
どういう環境がその年齢に本当にふさわしいのでしょうか。

幼稚園までの子ども、だいたい6歳までの子どもは、とにかくからだをつくっている時期です。からだをつくるのに必要なのは、栄養ももちろんですが、とにかく体を動かすこと。

自分の意志から、しかし調和のとれた動きに環境や周囲の大人が導くこと。だんだんに指先まで細かな動きができるようになりますね。そして感覚。触覚や自然の繊細な音を聴くこと、自然の色を見ること、周囲の大人をまるごと感じてもいます。

また毎日の健康な生活リズム。それらが子どものからだを育てます。幼児教育は、まさにそれを主体にして行われていると言えます。

そうしてからだが十分に育った時、人間のからだで最も硬い部分が生まれるのです。それが、永久歯です。永久歯は、エナメル質という最も硬い部分を持ち、二度と再生することはありません。この再生しない完成した部分(つまり命に満ちあふれたというより、死に近い部分と言えます)がからだから押し出されると、そこで働いていたからだをつくる力、成長の力は必要無くなります。その力が、からだから自由になって、実は心の思考する力になるのです。

永久歯が生える前から、子どもは少しずつ考えることができます。3歳頃から。そのころから少しずつ、からだを成長させる力が自由になっていくのです。しかし、この7歳前後に多くの成長するための力が思考の力に変わります。そこで、子どもたちは学校で知的なことを少しずつ学ぶ準備ができたと言えるのです。

安心の中、夢中で遊ぶ
感覚を育てる

また7歳までは体が育つ時期と言いましたが、この時期は、からだの中でも頭部が最も成長します。単純に、重さの増える割合で成長を比べると、この時期に脳神経系が育つ割合は、内臓や筋肉に比べて多いのです。新生児で大人の20%程度しかなかった脳の重さは、3歳ですでに大人の80%くらいまで成長します。そして6-7歳ころまでに90%にもなるのです。

脳の神経細胞の数は、新生児ですでに大人以上にあります。不要な神経細胞が減るとともに、神経細胞同士をつなぐネットワークが成長することで、脳の重さは増えていきます。物質的な成長は、6-7歳でほぼ完成するのです。

6‐7歳までの時期に行う感覚を育てる、体を動かすということは、脳のネットワークの成長を全体的にバランスよく促すと言えます。刺激がなければ、ネットワークは成長しないことがわかっています。

そして、ある程度脳が育ったところで、今度は学校に入り、その脳を学習のために道具として使うことでさらなる成長を促すのです。

一年生になってからは、どんなことが起こるのでしょうか。

7歳までの課題がからだが育つことだとすると、小学校に入ってからの課題は、心が育つことと言えます。そのために、感情が伴う授業、色にあふれた心が動かされる授業が用意されます。たくさんの言葉に触れ、暗誦し、動いたり表現したりします。

この時期はまた、からだで言えば、胸の領域(心臓や肺)が特に育ちます。心拍数や呼吸数が徐々に、大人と同じくらいになっていきます。運動科学でも、この時期に心肺機能が成長するので、少しずつ長距離走など耐久性を必要とする運動をさせることになっているようです。

先ほども書いたように、この時期の教育によって、たくさん感動し心が動き、またたくさんの言葉を話すことで、その心肺機能がよく育っていくのです。
この時期、先生を尊敬できるということが決定的に必要です。幼児が先生の行為を模倣するように、14歳以降が世界の法則や先生の思考によって学ぶように、この時期は、尊敬する(愛する)先生の存在によって学んでいきます。

 
 
喜びを持って、学ぶ
農業実習

14歳からはどうでしょうか?

この時期の課題は精神が育つこと、と言えます。霊や精神は育てるものではないかもしれませんね。しかし、地上的に精神の力を発揮できるようになることを、この時期に学ぶのではないでしょうか。

この時期には、ひたすら思考を学びますね。物理学や化学を通して自然界の法則を思考を用いて学び、実際に世界で起きている社会問題や経済問題と自分をつないでいきます。地域社会でのたくさんの実習も行われます。

この時期には、手足がぐんと強くなります。筋肉もしっかりしてきます。重さで成長の割合を見ても、筋肉の増え方が多い時期です。からだの末梢まで、しっかり成長するのです。そのしっかり育った手足を用いて、今度は意識的に世界に働きかけることを学ぶのです。

このように、その時期にふさわしい教育は、子どもの発達全体を促します。つまり、より健康にしていくのです。なぜ医師である私が、シュタイナー教育に関わっているかと言えば、教育は予防医学であると、私たちアントロポゾフィー医学では考えているからです。

シュタイナーによる医師への最初のルントブリーフ(回覧書)の冒頭には、教育と医学についてのメディテーションの言葉が紹介されています。それほど、シュタイナー自身が医療と教育のつながりを大事に思っていたのです。 3.11後の日本の状況、さらに言えばその以前からの自殺の多い日本など、現代社会で生きていくために、心とからだの健康がいかに損なわれやすい状況であるかというのはだれもが感じていることだと思います。

この日本の状況で、予防医学という観点から将来の子どもの病気を防ぐためにも、よりその時期の子どもにふさわしい教育が行われることがとても大切なことなのです。